コラム

タイにおける2024年クロスボーダーM&Aの展望

木川 貴之亮

営業本部 法人チャネル IN-OUT推進部

海外M&A
更新日:

⽬次

[表示]

日本M&Aセンターホールディングスは、このたびタイに現地法人「Nihon M&A Center (Thailand) Co., LTD」を設立し、2024年1月23日より営業を開始いたしました。

今回は、タイにおけるクロスボーダーM&Aの可能性や、今注目すべき領域はどこか?について、
タイを拠点に活動するM&Aプレイヤーの視点よりお届けします。

タイのクロスボーダーM&A市場動向と2024年の注目ポイント

タイにおける日系企業によるM&A件数は、2018年をピークに減少傾向へ転じ、更に新型コロナウイルスの影響がその傾向を助長する形で現在に至っています。また、日系企業の進出の歴史が長い製造業を中心に、戦略の見直しを迫られている状況も見受けられます。

そんなタイのクロスボーダーM&A市場ですが、業種別にみるとは変化や新たな商機が見えてきます。

IT業界に大きなポテンシャル

2020年以前と以降で業種別割合を比較すると、サービス業は大きく比率を落としているのに対し、IT業は比率を上げてきております。
コロナ禍で厳格なロックダウンが敢行されたタイでは、店内飲食が全面禁止となった結果、急激にフードデリバリー産業が成長しました。コロナ以前より個人間EC(Eコマース、電子商取引)が盛んであったことも手伝い、着実にデジタルサービス・ITサービスの領域が拡大しています。タイの生活現場を知る者としては、屋台の零細店舗にまでQRコード決済が浸透している現状に、タイにおけるIT産業の大きなポテンシャルを感じます。

官民を挙げたスタートアップ育成

また、今後のタイIT産業の成長を後押しする要素として、「スタートアップ産業の育成」が挙げられます。

タイは、「中進国の罠(中所得国の罠)」と呼ばれる、国際競争力の停滞の課題を長年抱えています。「中進国の罠」は、途上国において経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準まで達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期的に低迷する現象を指します。

タイ経済のさらなる発展のためには、「産業構造の多様化」や「高付加価値産業の育成」が求められています。これに対し、2023年、タイ政府は新興企業の株式売却益を非課税とする制度を導入しました。また、アユタヤ銀行がスタートアップ向けのファンドを設立するなど、官民挙げて推進に力を入れ始めた格好です。

参考:タイ、新興企業育成の遅れ挽回 「シンガポール流」で後押し(日本経済新聞、2023年6月15日付)
アユタヤ銀のCVC、新興企業ファンド設立(アジア経済ニュース、2023年2月10日)

製造業・自動車中心の経済に変化

産業構造の多様化や高付加価値産業の育成において外せないのは、タイの伝統産業である製造業における「EV化」の流れです。タイは日系自動車メーカーが85%*の高シェアを握る市場ながら、EVでは中国勢に大きくリードされている状況です。

「東洋のデトロイト」と称されたASEAN最大の自動車産業集積地であるタイは、新型コロナウイルスの影響にて大打撃を受け、ハイシェアを誇る日本勢がサプライヤーを中心に撤退を迫られている現実も一部で見られます。

実際にバンコク商工会議所の所属会員企業は、自動車サプライヤーを中心に企業数を右肩上がりで増やしてきた経緯がありますが、コロナ以降は、減少傾向です。
*出典:2022年の自動車生産は約190万台(タイ)(JETRO、2023年7月4日付)

2023年のクロスボーダーM&Aトレンド

2023年、日本M&Aセンターでは、タイにおいて2件のクロスボーダーM&Aの成約を支援させていただきました。
両件ともタイ拠点や事業に見直しを背景とした、日本企業(譲受側) × タイ現地法人(日系企業、譲渡側)のM&Aです。
高まる既存の海外拠点・子会社の見直しや撤退のニーズが当社のM&A成約実績にも表れたと言えるのではないでしょうか。

一方、市場拡大により魅力を増すIT産業に関しては、成約まで至らないまでも、多くのご相談をいただきました。
日系自動車製造業のお客様においては、喫緊の課題であるEV関連事業でのM&A案件に高い関心が寄せられました。

タイ現地法人Nihon M&A Center (Thailand) Co., LTD の設立

こうした中、より市場ニーズに合わせて企業さまをご支援するべく、タイ現地法人として Nihon M&A Center (Thailand) Co., LTD を設立し、タイでの活動を本格化することになりました。

タイ現地にて営業活動とサービス提供を開始することで、日本とタイおよびASEANのクロスボーダーM&A案件の情報量・成約件数ともに増加させることを目指します。

タイへの進出・子会社売却は日本M&Aセンターにご相談ください

ASEAN諸国の中でも、タイは日本企業が特に多く進出している国です。また、日系企業の活躍が経済発展に寄与してきた歴史があります。しかしながら、自動車産業を中心とした中国勢の台頭や事業環境変化の中、同国における日系企業のプレゼンスは徐々に低下しているように感じます。

とはいえ、日本企業の高い技術力を生かすなど、我々が躍進できる領域はまだまだ多くあります。また、少子高齢化による経営者の後継者不在問題は、実はタイにおいても近年顕在化しています。現地企業の存続の支援も、日系企業としてできるタイ経済への大きな貢献の可能性と信じています。

なかでも、IT領域やローカルビジネスへの進出は、タイにおける日系ビジネスに漂う閉塞感を打破する一手になります。日系企業の皆様には、ぜひ今後ともタイ市場の開拓・事業の拡大に果敢に取り組んでいただきたいと考えています。

日本M&Aセンターは、タイ現地法人設立により、後継者不在に悩むタイ企業の救済、さらにはM&Aを通じて日系企業がタイ経済においてビジネスを拡大し、プレゼンスを高めるお手伝いをしていきたいと考えています。

海外戦略に合わせて積極的にM&A(譲受・買収)を進めたい企業様に対しては、ニーズに則した提携先・M&A案件探しも承っております。ぜひお気軽にご相談ください。

日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。
また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

『海外・クロスボーダーM&A DATA BOOK 2023-2024』を無料でご覧いただけます

データブック表紙

中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。
日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

【セミナー無料公開】M&Aを通じてタイの巨大ローカル市場を開拓せよ!!【東南アジアM&A最前線】

著者

木川 貴之亮

木川きがわ 貴之亮たかのすけ

営業本部 法人チャネル IN-OUT推進部

損害保険会社での法人営業(自動車メーカー等)や海外駐在(バンコク)を経て、2022年に日本M&Aセンターへ入社。日本企業による東南アジアM&Aのソーシングに従事。ビジネスレベルのタイ語話者。

この記事に関連するタグ

「クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連するコラム

ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

今回ご紹介するプロジェクトTの調印式の様子(左から、ダイナパック株式会社代表取締役社長齊藤光次氏、VIETNAMTKTPLASTICPACKAGINGJOINTSTOCKCOMPANYCEOTranMinhVu氏)私はベトナムの優良企業が日本の戦略的パートナーとのM&Aを通じて持続的に発展することを支援するために2022年にNihonM&ACenterVietnamへ入社しました。当社へ入社する前

シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

海外M&A
シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

人件費、賃料、ビザ発行要件、すべてが「高い」シンガポールASEANのハブと言えば、皆さんが真っ先に想起するのはシンガポールではないでしょうか。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、シンガポールでは87社の統括機能拠点が確認されています。東南アジアおよび南西アジア地域最大の統括拠点の集積地として地位を維持しています(タイ:21社、マレーシア:11社、インド:5社)。リークアンユー首相の下で、少ない資

小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

海外M&A
小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

本記事では、ベトナムでのM&Aの特徴と代表的な課題について解説します。(本記事は2022年に公開した内容を再構成しています。)比較的に小粒である、ベトナムM&A案件ベトナムのM&A市場は、ここ数年は年間平均300件程度で推移、Out-Inが全体投資額の約6~7割を占め、その中で日本からの投資件数はトップクラスです(2018年:22件、2019年:33件、2020年:23件)。興味深いことに、1件当

インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

海外M&A
インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

本記事では、クロスボーダーM&Aで最も重要であるPMIについて、インドネシアの場合を用いてお話しします。(本記事は、2022年に公開した記事を再構成しています)M&Aのゴールは“成約”ではありません。投資側の日本企業と投資を受ける海外の現地企業両社が、思い描く成長を共に実現できた時がM&Aのゴールです。特にインドネシア企業とのM&Aは、他のASEAN諸国と比較しても難易度は高く、成約に至ってもそれ

海外M&Aとは?目的やメリット・デメリット、日本企業による事例まで解説

海外M&A
海外M&Aとは?目的やメリット・デメリット、日本企業による事例まで解説

近年アジアなど成長著しい市場をターゲットに、海外M&Aを検討する中堅・中小企業は増えております。しかし、海外M&Aでは日本国内で実施するM&A以上にノウハウが不足していることが多く、海外M&Aを実施するハードルが高いと言わざるを得ません。そこで本記事では、日本M&Aセンター海外事業部の今までの経験を踏まえて、海外M&Aの内容や実施される目的、またメリットや注意点・リスクなどさまざまなポイントについ

タイでM&Aを検討する際に留意すること

海外M&A
タイでM&Aを検討する際に留意すること

本記事ではタイでのM&Aにおいてよく問題となる、タイ特有の留意点について解説します。(本記事は2023年2月に公開した内容を再構成しています。)※日本M&Aセンターホールディングスは、2021年にASEAN5番目の拠点としてタイ駐在員事務所を開設、2024年1月に現地法人「NihonM&ACenter(Thailand)Co.,LTD」を設立し、営業を開始いたしました。タイ王国中小企業M&Aマーケ

「クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連する学ぶコンテンツ

「クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

戸田建設、ニュージーランドのホテルCoherent社株過半取得で開発事業に着手

戸田建設株式会社(1860)は、100%子会社TodaAsiaPacificPte.Ltd.(シンガポール、以下「TAP社」)を通じ、ニュージーランドでホテル事業を展開するColwallグループのCoherentHotelLtd.(ニュージーランド、以下「Coherent社」)の第三者割当増資を引き受け、Coherent社株式の過半(51%)を取得した。Coherent社の増資後の資本金が、戸田建

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース